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医薬品クライシス

佐藤健太郎の「医薬品クライシス」を読んだ。著者は元製薬企業の社員で、著者がいた創薬業界が執筆時 (2009年頃) に直面している"新薬が生まれない"問題について語った一冊。

薬とは何か、から始まり、ひとつの薬が商品として夜に出回るまでの道のり、製薬業界の特異性、製薬業界で起きている変化、今後の創薬について書かれている。タイトルの医薬品クライシス、は最近さまざまな事情から創薬が出なくなったことと、製薬企業を支える数少ない屋台骨の薬が特許切れにより屋台が揺らぎ、製薬企業自体に薬が必要な状態になっていることを指している。副作用や薬害を責め立てる内容では一切ない。

著者は、現在はフリーライタとして活躍されているが、おもしろい文章を書く秘訣としてマメ知識を散りばめること、と公言している。本書でも随所に実在の企業名や商品名を挙げて、実例を示している点が、わかりやすく非常におもしろくしている。また、製薬企業を辞めたゆえに「そんなこと言ったって、我々は神ではないのだから副作用のない完璧な薬なんて作れないよ」と素直に語っている。

薬は我々の健康を増進し、寿命をも大きく伸ばしてきたけれど、その実、のびた寿命にどれほどの意味があるのか、と問われると答えに窮する部分があることも確か。誤解を恐れずにかけば、死なないから生きる、というのは他生物の命を貪る身としては、あまりにも自己の生を軽視し過ぎている。非常に多くの犠牲を敷いて出てきた薬で寿命が伸びるなら、伸びただけの価値ある生き方をしていきたいものだ。

 

今回は Kindle ストアで購入して iPhone で読んだ。いつでもどこでも読めるメリットはあるけれど、やはり物理的な本の形をしていないと読んだ実感がわかない。Kindleライトノベルや漫画には良いだろうなと感じた次第。